マスク時代の今だからこそ使いこなしたい 粋な日本語 思いが伝わる美しい言葉のチョイス
2021/10/15
みなさんこんにちは。
シニアマナーOJTインストラクターの加藤りん子です。
音の響きや余韻が耳に心地よいということで、日本語は世界で一番美しいという声もあります。
その響きに惹かれ日本語を学んだ人たちは、心情や自然の情景を表現した言葉の多いことにも驚かされると同時に、美しいと感じるそうです。
言葉にいたわりや心遣いを込めて伝えるのは、日本特有の文化です。
自分の価値観を大切にしたい。
ほどほどの距離感をもちたい。
相手を傷つけず、誤解されないように上手に断れたら…。
そんな時に使える、美しい日本語はたくさんあります。
マスク越しで表情が読み取りづらい今だからこそ、品格と温かみのある日本語の語彙力を増やし、粋なコミュニケーション力をあげてみませんか。
人間関係を滑らかにする言葉 【挨拶編】
一説によると、言葉の始まりは歌であるといわれています。
鳥が求愛の為にさえずる歌と同じように、ひとも歌で思いを伝えていたというのです。
言葉は、思いを伝えることから始まっているのですね。
言葉に、相手へのいたわりや細やかな心遣いを込めて伝える。そうしたことに殊更思いを砕くのは、日本人の文化です。
例えば、毎朝会社で一番にするであろう挨拶「おはよう」は、自分より早くから働いている人を労う気持ちから発せられます。
「こんにちは」は「今日は良い天気ですね」が略されて「こんにちは」だけになったそうです。
夏目漱石の「坊っちゃん」の中に、不義理と思われる行為をはたらいたある男女の噂話をしている主人公と下宿のおばあさんのくだりがあります。
その中で、
「(前文略)それじゃ今日様(こんにちさま)へ済むまいがなもし、あなた」
「全く済まないね。今日様どころか明日様にも明後日様にも、いつまで行ったって済みっこありませんね」(以下略)
と会話を交わしているのです。
(夏目漱石『坊っちゃん』青空文庫2011年5月20日修正)
多くの人が農業に従事していた時代、「今日(こんにち)」が太陽に対する感謝と、それを分かち合う喜びが込められていたそうです。
だから、
「今日様(=お天道様)に申し訳ない」とおばあさんが言ったら、
「今日様どころか明日様にも明後日様にも…」と主人公が返した。
二つの解釈が可能な単語を利用して会話を転がし面白がる。
とても粋だと思いませんか。
こうした、言葉のレトリック(技法)を活用し粋な会話が出来ること。
ちょっと素敵じゃないですか?
初対面の挨拶では、「はじめまして○○です」が一般的ですが、そこに一言プラスして「はじめまして○○です、お目にかかれて光栄です」とすると、より豊かな表現になり奥ゆかしさが伝わります。
いつもの挨拶にプラスαすると相手との距離がグッと近くなるのです。
例えば「おはようございます」だけだと、相手と目を合わせる間もなく通り過ぎてしまいますが、「お寒うございます」や、「お変わりありませんか」など、ひと言プラスすることで、相手の顔を見て挨拶をする余裕が出来ます。
顔を合わせることは挨拶の基本です。
プラスαするかしないかは時間にしてほんの数秒の差です。
人間関係を滑らかにする為には、末尾まで行き届いた言葉を使うことを心掛けてみると良いですね。
あなたの人柄に対する印象が格段に違ってきます。
美しい言葉遣いで教養と品格をあらわす 【日常言葉編】
英語には敬語が無いと聞いたことがありますが、英語にも丁寧な場面で使うための言葉の選択肢はあります。
ただし、日本語のように、単語の語尾変化や、言い回しを変えるなどによる立場によって使い分けるものではなく、『上品な人は品格のある言葉遣いをする』というものだそうです。
日本の敬語には尊敬語と謙譲語があります。
自らをへりくだり相手を立てた言葉の構造は日本語ならではです。
いくらお洒落な服を着て、きれいにメイクしても、その口から出る言葉が汚かったり稚拙だったりしたらがっかりですね。
相手や状況に合わせた気遣いがあれば、咄嗟の言葉の選び方も違ってきます。
思いやりと知性を感じさせる話し方は、どの年代の人からも好感をもたれるものです。
以前、ご近所の奥様から「ほんのお口汚しですが・・」と言って立派な梨を頂きました。
その心遣いがとても嬉しかったのと同時に、奥ゆかしい言葉をまだ若い女性の口から聞いたことに衝撃を受けたのでした。
美しい言葉はどんなドレスよりもあなたを引き立ててくれます。
相手を気遣う際に付け足すのに、「恐れ入ります」や「お陰様で」、「お言葉に甘えて」、「おさしつかえなければ」など様々あります。
これらはクッション言葉といって、相手にお願いごとをするとき、否定を伝えるときなどに用いるとよいですよと、私たちマナー講師は講座の中でお伝えしています。
そんな言葉の一つに「ふつつか」というものがあります。
昔は、よくドラマの結婚シーンで見たことがありますが、漢字では「不束」と書き、一説によると、稲の束がそろっていない状態を表していることで、これが転じて、「まだまだ至りませんが」、という意味から相手に教えを乞うへりくだる言葉となったそうです。
「ふつつかではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」と挨拶をしたら、第一印象は五割り増しですね。
使えると一目置かれる粋 【上級編】
美しい言葉を知っているだけではまだまだです。
はじめは一つでも良いので、使える言葉をもちましょう。
表現が豊かになっていくことでしょう。
ちょっと古風で難しくも聞こえますが、美しい表現の例をあげてみましょう。
「心待ちにしております」
「いたしかねます」
「やぶさかではない」
「よんどころない」
「お名残り惜しいのですが」
「お聞き及びのことと存じます」
「大変嬉しく思います」など。
さらりと使いこなせると『粋』で、周りから一目置かれるかもしれませんね。
これはある日の電車の中での出来事です。
20代半ばの女性がシートに座っていました。
そこへ杖を持った男性が乗りこんできます。
女性が席を譲ろうと立ち上がったところ、杖の男性は「私を年寄り扱いするのか!」と怒鳴りました。
すると女性は、「申し訳ありません!わたくしよりも目上の方とお見受けしましたので。大変失礼いたしました」と頭を下げました。
男性は、「いや、もういい、ありがとう」と言い、譲られたその席に座ったのです。
その時、見知らぬ人に突然怒鳴られたのに、冷静に対処する彼女にも驚きましたが、咄嗟に出た美しい言葉遣いに感心したものです。
こうした表現が自然にサッと出てくれば。
周囲もきっとあなたに一目置くはずです。
環境が人を作るように、言葉も人を作るものだと思います。
揺れ動く感情を相手にそのままぶつけていては、よいコミュニケーションはできません。
品格のある言葉遣いは相手を尊重し、相手に恥をかかせない、相手に気を遣わせないことが肝要です。
相手の立場に立った言葉を使うように心がけましょう。
言葉の伝え方についてお話してきましたが、相手を気遣う為にもう一つ重要なのは、聴くことです。
帝国ホテル社長の定保 英弥氏がインタビュー記事の中で、
“「聞く」と「話す」の比率です。私の場合は6対4くらい。ときには聞き役に徹することもあります。”
(帝国ホテル社長が白シャツしか着ない理由|PRESIDENT Online(プレジデントオンライン))
最初から自分の意見を伝えずに、まず相手の意見を聞き、どのような考えを持っているのかを十分聴くとのことです。
相手を思いやる言葉は相手を知らなくては紡げません。
万葉集の柿本人麿の歌に、「しきしまの 大和の国は言霊の さきはふ国ぞ まさきくありこそ」というのがあります。
意味は、「やまとの国は言葉の霊力が物事を良い方行へ動かしてくれる国です、どうか私が言葉で申し上げる通りに無事でいてください」というものです。
桜井市観光情報サイト
言霊は、言葉に宿る力といわれています。
言葉に魂が宿るという考え方は、相手を思いやる日本人らしい考えですね。
握手やハグなどで思いを伝えることが難しい今、温かい言葉で人間関係を豊かにしていきたいものです。
ぜひこの、昔から使われている美しい言葉のチョイスで、いつまでもつづく人間関係を大切に繋げてください。
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