人前で注意する? 褒めてから指摘する? 指導したいときのポイント~外国人部下を持つ上司の心得~
2020/03/06
みなさん、こんにちは。
トップマナーOJTインストラクター石井由美子です。
人間は誰でも上司から注意を受けると落ちこんだり、自分を責めたりするものです。そのような感情は国籍を問わず、同じなのではないでしょうか。
けれども、文化によって、注意の受け止め方が違うことがあります。
外国人部下への指示出しとして、これまでに
「わかりやすい指示」
「心理的に受け止めやすい指示」
「モチベーションアップの指示出し」をお伝えしてきました。
今回は「文化によって異なる注意の方法」について、航空会社で外国人と一緒に乗務した経験や、現在インバウンド企業研修、大学で外国人へのキャリアプランを指導する立場からお伝えします。
まず、アメリカの文化人類学者であるエドワード.T.ホールが唱えた「ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化」という識別法についてお話しします。この識別により、国や地域のコミュニケーションの特長が理解しやすくなるのです。
「コンテクスト」とは、文脈、脈絡、状況と訳され、コミュニケーションの基盤となる文化の共有度合いといった意味で使われます。【出典】日本の人事部
国や文化によって違うコミュニケーションの特長を知る
【ハイコンテクスト文化とは】
日本、韓国、中国、インドネシア、イラン、ケニア、インド、フランスなど
コンテクストの共有性が高い文化を指します。
伝える努力やスキルがなくても、互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう環境のことです。
すべてを語らずとも、相手の言わんとしていることをつかむコミュニケーションを行います。そのため、聞き手の能力を期待する傾向があります。
【ローコンテクスト文化とは】
アメリカ、オーストラリア、カナダ、オランダ、ドイツ、イギリスなど
コンテクストに依存するのではなく、あくまで言語によってコミュニケーションを図ろうとします。そのため、シンプルで明快で曖昧さのないことが効果的なコミュニケーションとされ、論理的な話し方などの教育もされます。
たとえば、「今回のプレゼンは上手くいった?」という質問に対しての答え方に、それぞれこのような例があげられます。
・ハイコンテクスト文化
「あー、競合相手もなかなかいいプレゼンをやっていて、これはどうかと思ったのですが、○○さんのアドバイスもあって、なんとかおかげさまで……」
結果をはっきりと言わず、経過や感情を伝える。それによって頑張ったこと、成果があったことを聞き手に察してもらっていますね。
・ローコンテクスト文化
「上手くいきました! 1,000万円の契約が取れましたよ!」
結果から言う。成果や具体的な数字などをあげます。
コンテクスト文化とローコンテクスト文化ではコミュニケーションに対する考え方や、求められるスキルが異なることがおわかりいただけると思います。
日本は最もハイコンテクストの文化であり、その対極はアメリカや欧米と言われます。
意外?日本人は人前で厳しく注意しても受け止められる
オブラートに包んで言うハイコンテクスト文化のはずの日本ですが、組織の中では、意外と人前でも部下に厳しく注意しているのではないでしょうか。
これはなぜでしょう? 実は注意や指摘のときには、「言外に匂わす」ハイコンテクスト文化の特徴が、当てはまらないケースが多いのです。
わたしもCA時代、いろいろと失敗しました。その件が乗務中に収まったとしても、フライト終了後のミーティングでは、責任者であるチーフからあらためて指摘されます。同乗CAに対してお詫びをし、身が縮まるような思いをしました。
同様に、その後、わたしが責任者となったときも、「今回、こういうことがありましたが注意しましょう」と、本人がいる目の前で話題としてあげることが常でした。
ハイコンテクスト文化であるにも関わらず、注意するときは人前でズバッと言うのは、「課題共有」「今後に生かす」という考え方があるからで、注意された方も甘んじて受けます。
また、日本人らしい「けじめをつける」と言う考え方もあるでしょう。
外国人の場合はコンテクスト文化によって使い分けよう
外国人部下に注意や指摘をするときには、日本式に「単刀直入にはっきり伝えることが良い」と思っていませんか? 日本式が通じない国の人もいますし、「外国人」がすべて同じわけでもありません。
・アメリカ人の場合
ローコンテクスト文化のアメリカ人には、一見それでいいような気がしますが、実は、それではきつく受け止められることが多いようです。
アメリカ人は、注意や指摘をするときには2点ほど褒めてから、本当に伝えたい注意などを最後に伝えると言われます。
「よく頑張っていますね!チームに良く貢献してくれていると思いますよ。ただ、もしアドバイスさせてもらえるなら、○○をするといいと思うんですが……」
遠回しですね。これを日本人が聞くと、「褒められた!」と勘違いしそうです。
・フランス人の場合
どちらかというとハイコンテクスト文化であるフランス人も、注意や指摘の際には、ズバリと言うといわれます。むしろ上司の当然の仕事として指摘などが期待され、その際はストレートなやりとりが交わされるそうです。
ダイレクトに言われることに慣れているフランス人も、さきほどのアメリカ人の言い方では、最初の褒め言葉で気持ちが高揚し、本当に相手が伝えたい最後の一言は聞き逃しそうです。
・中国人の場合
中国人の場合は、特に「人前で注意しない」ことがポイントと言われます。
人前での注意は、上司のデリカシーのなさの方に怒りを感じて、内容が受け止められにくくなります。
相手だけを別に呼んで注意すると、その気遣いや敬意に対して神妙に受け止めてくれますが、それでもこんな経験があります。
ある中国人CAに個別に注意指導をしたことがあります。まったく笑顔がなく他のCAの動きも見ていませんでした。無表情で私の話を聞いていた彼女は、急にはらはらと涙をこぼし、慌てました。
きつく言ったつもりはなく、日本人CAなら普通に受け止めたことと思いますが、「よくやっているね」と嘘でも(?)言ってからの方が受け止めやすかったのでしょうか?
いえ、なにか良いところも見つけてから注意するべきだったと今は思います。
注意をするなら、相手が改善する気持ちにもっていかないと意味がないのです。
逆に、「誰も何も言えない怖い雰囲気の、キャリアの長い中国人CA」に人前で注意してみたことがあります。
ある日、コンコースを歩く彼女のフライトバッグのコマが驚くほど大きな音をたてていたので、あえてその場で注意してみました。
「○○さん、音に気をつけたほうがいいですよ。お客様も見ていらっしゃるでしょう」と笑顔で言い、そのあと、一緒に話をしながら歩きました。あとで他の中国人CAから注意してくれて嬉しかったと言われました。
当の本人はどうかというと、それ以来、私を見ると親しげに話しかけてくるようになりました。
コンテクストを理解しながら、やはり目の前の相手の立場や気持ちも考えていくことがコミュニケーションをスムーズにしますね。
それぞれの文化によって注意の受け止め方が違うことを理解しておくことが、本来の目的である、指導のヒントになります。
良く考えてから注意することは、あなたの気持ちにワンクッションを置いて、感情的にならずに相手の指導ができることになっていきます。
また、注意するときも、そのあとの観察も、コメントを伝えるときも、相手の受け止め方を考えることで、指導する立場の成長にもつながっていきます。
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